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1月28日、スプリングバレーブルワリー東京（東京・代官山）で新作ビール「みかんエール」の発売イベントが開かれた。多くの報道関係者が招かれたこのイベントは、スプリングバレーブルワリー株式会社の代表取締役社長、和田徹氏による2016年事業計画の発表からスタート。次に開発者からみかんエールが紹介され、キリンホールディングス株式会社代表取締役社長磯崎功典氏のトークと乾杯の挨拶で締めくくられた。30分と短い時間だったが、キリンビールの情熱がよく伝わってきた。本稿では、日本のクラフトビール市場へ大きな影響を与えるであろう今年のキリンビールの動きと、新作「みかんエール」を紹介したい。

450L限定醸造の希少な「みかんエール」

スプリングバレーブルワリーでは昨年、6種類の定番ビール以外に13種類の限定ビールが醸造、提供された。2016年はなんと40種類もの限定ビールを提供する予定。１ヶ月に３種類以上の限定ビールを提供する計算になる。これは海外のクラフトブルワリーと同じスピード感であり、日本では数社しか実現できない。趣味嗜好の入れ替わりが早い現代の日本にピッタリな事業戦略だろう。

みかんエールは「シーズナル（季節に合わせた）」がコンセプト。醸造に使用したみかんは、磯崎氏の実家で収穫された。みかん農家である同所では様々な種類を栽培しており、今回は今が旬の「温州みかん」を使用。キリンビールが研究開発したホップ「江刺7号（トロピカルフルーツやイチジクのような風味が特徴）」、大麦麦芽、小麦麦芽と共に醸造している。

ビールはみかんを剥いた時の爽やかな香りがあり、口に含むとさらにみかんの味が一気に広がった。とてもフレッシュで、甘みもあるが爽やかな酸味もある。苦味が少なく喉越しも爽快なこのビールは、クラフトビール初心者やビールが苦手な方でもきっと楽しめるだろう。みかんエールはスプリングバレーブルワリー東京でしか飲めない限定ビールで、醸造量も450Lと少ないため、ぜひ早めに来店してほしい。

フードとのペアリングでさらに楽しむ

イベントでは「みかんエール」に合わせたフードも提供された。相性のいい料理とビールを提案する「ペアリング』は海外ではすでに定着し始めており、スプリングバレーブルワリーも力を入れている。イベントでは、白身魚、人参サラダ、ニョッキ、ピザなどが提供され、どれも「みかんエール」と一緒に食すことで、口の中でペアリングを楽しむことができた。

ペアリングというコンセプトを広げることによって、新たなビールの楽しみ方が増える。キリンビールのような大手がペアリングを積極的に提案すれば、より多くの人にビールの多様性を知ってもらえるチャンスが増えるだろう。クラフトビールなどを提供する飲食店にもペアリングを積極的に提案してもらえれば、これまで「とりあえず」のビールしか提供していなかった飲食店も、ビールに注目するメリットを感じてくれるかもしれない。ひいては海外のように、日本でも豊かなビール文化が根付くことにつながるだろう。

2015年が「クラフトビール元年」と呼ばれ、ニュースやメディアでもビールの新たな楽しみ方が多く取り上げられた。しかし、まだ日本では大手ビール会社が市場の99%を独占している（✳︎1）。ビール全体の年間売り上げも下がっているのが実情だ（✳︎2）。日本のクラフトブルワリーや海外ビールのインポーターだけの力では、なかなかこの流れを変えることはできないだろう。やはり大手メーカーの動きが注目される。多種多様な現代の日本には、多種多様なビールも必要である。今が変化の時かもしれない。大手ビール会社の今年の動きに期待したい。 

✳︎1: 帝国データバンク2015年3月17日記事「地ウイスキー、クラフトビール、着実な成長 」
✳︎2: 醸界タイムズ2016年1月27日「平成27年ビール類の課税出荷状況　11年連続で前年割れ」