コラム
2015.12.30
連載:文脈で読み解くビール考02/美味しくないのは自分のせい
クラフトビールシーンではIPAを筆頭に、キャッチーで派手な要素を前面に出したお酒が流行していて、作り手も飲み手も共犯関係にあります。ビールとは、本当にそういうものなのかしら? とモヤモヤしたことがありました。それに対する一つの答えが、「ロコビア」の「スコティッシュ\220-」だと私は考えます。
流行とは真逆の“60シリング”
2014年、千葉県佐倉市の醸造所、ロコビアが、現代のクラフトビールシーンに一石を投じるビールを発表しました。そのビールは「スコティッシュ\220-」。どんなものなのか、まずはスタイルを見ていきましょう。以下、ロコビアのブログから引用します。
スコットランドを代表するエールには大きく分けてスコティッシュ・エールとスコッチ・エールがあります。「スコティッシュ」も「スコッチ」も同じような意味で「Scottish」を引くと「=Scotch」なんて書いてある辞書もあるくらいです。しかし、ビールに関して言うとスコッチ・エールは別名ウィ・ヘヴィと呼ばれるスコットランド風高比重ビールを指すのに対して、スコティッシュ・エールはそれよりは軽いエールを指します。BJCPのスタイルガイドラインによるとスコティッシュ・エールは軽いものから順に以下の3種類あります。・スコティッシュ・ライト60/-
・スコティッシュ・ヘヴィ70/-
・スコティッシュ・エクスポート80/-今回、ロコビアで仕込んだスコティッシュ・エールは最も軽い60シリングと呼ばれるもの。BJCPのスタイルガイドラインによれば、
OG:1.030-1.035、FG:1.010-1.013、IBUs:10-20、SRM:9-17、ABV:2.5-3.5%
と色以外全てが低いレベルにあるエールだということがわかります。とにかく軽いスコットランドスタイルのビールで、言うなれば「地味」な味わい。ものすごくマイナーなスタイルで、「渋すぎるチョイスだなぁ」というのが第一印象でした。
「終わりのない日常のお酒」としてのビール
「スコティッシュ\220-」は度数 が3%と低く、水っぽい。味も香りもかなり薄いものです。今風のIPAなどがお好きな方からすれば全然美味しくもなく、どーしょーもないお酒に見えると思います。しかし、私はあえて言います。見方を変えるべきです。水のようにさらっとして飲み疲れず、麦の甘みや旨味をじんわりと感じられる。ガス圧も弱いのでおなかに溜まることもなく、たくさん飲めます。例えて言うなら「味の濃いおかず」ではなくて「白いごはん」のような、しみじみとした美味しさを噛み締められるのです。
ヨーロッパの国々では日々、何は無くともパブやカフェに通い、長い時間をかけてビールを飲みます。“いつものもの”を“いつも通り”にダラダラと。飲んだ瞬間に意識の覚醒を呼ぶようなお酒は頭も肝臓も疲れさせてしまいますから、白いごはんのようなものが良いわけです。普通で、ありきたりで、でも滅法美味しいもの。私たちはつい忘れがちだけれども、本来ビールとは「終わりのない日常のお酒」であり、そういうライフスタイルの中にあるものなのです。
現代ライフスタイルへのアンチテーゼ
私たちは忙しすぎて、睡眠時間を確保するのが精一杯だったりします。ストレスの多い生活をリセットしたくてもゆっくりグラスを傾けている暇はなく、僅かに許された時間で強くて派手なお酒を頑張って煽りがちです。そうするうちに私たちの身体は慣れていき、日常的に非日常的な強度のものに触れないと満足できなくなります。IBUの凄まじいインフレはその証拠でしょう。
しかし、「ビールの原風景」はそうではないと思います。もしスコティッシュ\220-が楽しめないとするならば、それをビールのせいにするのではなくて自分のライフスタイルを見直すきっかけにすべきなのだと思わずにはいられないのです。ゆっくりしよう、無理はやめよう、とビールに言われているような気がして恥ずかしくなります。当たり前だと思っていたことの不自然さや矛盾にふと気づき、反省に至ります。
ロコビアのスコティッシュ\220-は「日常的に非日常に接するという矛盾」を内包するクラフトビールシーンに対してのアンチテーゼであり、「基本を大事に、スローに生きていこうよ」というメッセージなのだと、私は受け取りました。大げさかもしれないけれど、これを1パイント飲んだ帰り道はいつもの景色が違うかもしれません。少なくとも私は、大きく変わりました。沖 俊彦
CRAFT DRINKS運営責任者。1980年生まれ。都内酒販店にて「欧和」の担当を務めた後、2012年大月酒店に移籍。2015年「CRAFT DRINKS」を立ち上げ現在に至る。ビール品評会審査員も務め、セミナー講師も多数。セミナーや勉強会も開催。詳細やお問い合わせはtoki@craftdrinks.jpへご連絡ください。CRAFT DRINKS BLOG/CRAFT DRINKS FACEBOOK
最近読んだ記事
新着レビュー
注目の記事
Special <PR>