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コラム

2016.06.29

ビア・アンバサダー講座 第2回「“インポーター”とは?」(#3: 通関)

貴戸“トム”光彬 貴戸“トム”光彬

世界中で愛されているビールでも、日本の安全基準に満たない商品は国内に入れることができません。Part 3では、インポーターが海外のビールを国内に入れるために必ず行う「通関」という手続きを紹介します。

港で通関待ちのビール。Photo by HM Revenue & Customs
港で通関待ちのビール。Photo by HM Revenue & Customs

最初の関門は「税関」

日本には、毎日数多くの貨物が空港や港に到着しています。皆さんが海外から帰国された際、空港や港で税関の確認を受けるように、海外からの貨物もすべて税関の確認がされています。ビールのような飲料は口にするため、非常に厳しい検査を受けます。これは税関の確認以外に厚生労働省が検疫(✳︎1)を行います。これらの細かい確認作業を全てクリアしなければ、ビールが通関(✳︎2)しません。では、具体的にどのような確認や作業が行われているのでしょうか?

ビールが日本に到着するにあたっては、輸送会社からインポーターへ事前に(1日〜1週間)到着の知らせが入ります。その連絡と共にインポーターは、税関または通関業者(✳︎3)にビールが自社商品であり、通関したい旨を伝えます。そこで税関から細かい商品情報が要求されます(商品名、商品容量、商品の容量別数量、インポーターの仕入れ価格、関税番号(✳︎4))。

日本で「ビール」と呼ばれている商品は「水、麦芽、ホップ(酵母以外)を原料として発酵させたもの」のことを呼びます。その他、副原料(フルーツ、スパイスなど)を使用している場合は、「発泡酒」と呼ばれます。いずれも関税は無税になりますが、日本では酒税を支払う必要があり、「ビール」か「発泡酒」によって酒税も変わります。さらに消費税(8%)もビールに課せられます。これらの費用を事前に税関に収めることで税関の許可が得られますが、前述の通り、厚生労働所の検疫を受け、体内摂取の安全性を証明しなければなりません。

ビールの作り方まで聞かれる?!

この検疫作業は時間と手間がかかります。検疫に必要な書類は主に2つ。「ビールの製造工程表」と「成分表」です。ビールの製造工程表とは、ビールがどのような順番で製造されたか、また一つ一つの工程でどのような作業が行われたかを説明しています。成分表には、ビールを製造するにあたって使用した原料の詳しい情報を記載しなければなりません。原料の使用割合(例:水90% ホップ 5%、麦芽4%、酵母1%)と原料の原産地が主に必要な情報です。

ビールの製造工程表例
ビールの製造工程表例

上記の製造工程表と成分表を基にビールの検疫が行われ、情報が不十分の場合や提供している情報に矛盾点などがあると、資料の再提出などが要求されます。提出した書類で安全性が確認されると厚生労働所から許可がおり、通関できようになります。この検疫を含めた通関作業は税関の混み具合などにもよりますが、最低でも1ヶ月ほどかかります。一回商品が通関すると「通関実績」ができるので、同じ商品をその後輸入する際、1年ほどは税関で再度検疫や細かい通関書類を要求されることがほとんどありません(1年に1回は、書類の再提出と検疫の確認が行われます)。

新しいビールを初めて日本に輸入する場合は、通関実績を作るために少量のビール(6個入りケースを3ケース〜5ケースほど)を輸入します。なぜなら大量のビールを一気に輸入した場合、税関が混み合い通関するのに数ヶ月かかってしまうことがあるためです。商品が賞味期限切れになったり、商品が劣化してしまったりすることになりかねません。また、最悪の場合税関で輸入NGとなった場合は、商品を処分しなければなりません。このようなリスクを避けるためにも最初は少量の輸入をし、通関実績を作ってから、本格的な輸入を行います。

今回は「通関」の詳細をご紹介しましたが、もう一つ大事な点があります。インポーターは、日本の政府と地方自治体にビールを輸入する許可(ビールの輸入免許)を得ている必要があります。日本国内への輸入が許可されたら、税関から自社倉庫または小売店などに直接入れなければなりません。この段階ではまだビールを一般消費者へ販売することが日本の法律では許されていません。詳しいことは次回のPart4で紹介していきます。

✳︎1: 検疫:海外から持ち込まれた商品に病原体や有害物質が含まれてないかを確認する作業。

✳︎2: 通関:税関に要求された情報をすべて申告することで輸入の許可を得ること。

✳︎3: ビールの輸入許可を税関とインポーターの間に入り、税関の細かい要求や資料の作成をインポーターの代わりに行ってくれる業者。

✳︎4: 関税番号(HSコード):138カ国が加盟している国際条約によって、貿易されている全ての商品を分類している統一番号。商品を分類し、番号を与えることで対象商品が国によって異なることを避けることができ、国よって定められている関税率を割り当てられる。

貴戸“トム”光彬

貴戸“トム”光彬

この著者の記事一覧

beer365代表。海外で18年間過ごし日本へ帰国。音楽業界で8年勤め、現在貿易関連会社勤務。2010年、仕事がきっかけでクラフトビールと出合う。日本地ビール協会( JCBA)認定ビアテイスター、ビアコーディネイター。