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beer365 magazine ビアサンロクゴ

コラム

2016.03.04

連載:ビアジャーナリスト・佐藤翔平のペアリング実験室06/ドゥシャス デ ブルゴーニュ

佐藤翔平 佐藤翔平

ビアジャーナリスト佐藤翔平が、ビールと料理のペアリングの相性を検証する連載、第6回。「Brouwerij - Brasserie Verhaeghe Vichte(ヴェルハーゲ醸造所)」の「 Duchesse de Bourgougne(ドゥシャス デ ブルゴーニュ)」は、チェリーのような上品な甘さと酸味の絶妙なバランスに、オーク樽熟成由来の複雑な香りが艶やかさや高貴さをプラスする。あなたならどんな料理を合わせるだろうか?

ヴェルハーゲ醸造所「デュシャス デ ブルゴーニュ」。チェリーのような上品な甘さと酸味が特徴。
ヴェルハーゲ醸造所「デュシャス デ ブルゴーニュ」。チェリーのような上品な甘さと酸味が特徴。

侯爵夫人の名にふさわしい、高貴な味わいに恋い焦がれる

本連載のラストを飾るビールは「Brouwerij - Brasserie Verhaeghe Vichte (ヴェルハーゲ醸造所)」「Duchesse de Bourgougne (ドゥシャス デ ブルゴーニュ) 」。フランス語で「ブルゴーニュの侯爵夫人」を意味する、 筆者がビールにハマるきっかけになったビールでもあります。

なぜならそれが「甘酸っぱいビール」だったから。当時の私の「ビール=苦いもの」という考えが覆された瞬間でした。その秘密は醸造工程にアリ。ビールは醸造所内の金属タンクで熟成されるのが一般的ですが、同ブランドはワイン造りにも使用されるオーク樽を用いるのです! これにより、独特の酸味やタンニン、フルーツを漬け込んだような味わいが付加。 ベルギー・西フランダース地方に古くから伝わる「レッド・ビール」と呼ばれる種類で、本ブランドも長く愛されているもののひとつです。

では、ドゥシャス デ ブルゴーニュの持つ味わいの特徴を挙げていきましょう。
①若い青リンゴやプラム、ブラックチェリーのような香り。そこにオーク樽熟成特有のコルクやバニラのスパイシーな香りが深みを出す
②濁りあるダーク・レッドの液体を一口。チェリーのような上品な甘味を感じた後、次第に酸味が現れる。甘味の中の酸味が良い刺激として絶妙なバランスに
③飲み込んだ後、ウィスキーにも似たモルト風味とアルコール・フレーバーの余韻を深く感じる。程よいタンニンと清涼感がある

さぁ、ビールと合わせる料理は浮かびましたか?

酸味と渋味にも相乗効果が期待できます

「シナジー・リアクション」は五味(甘味・塩味・酸味・苦味・旨味)同士でも存在します。例えば、「コーヒーの苦味を砂糖の甘味で【緩和】する」「スイカに塩を振って甘味を【強化】する」など。ドゥシャス デ ブルゴーニュで言えば、このビールが持つ特徴的な「酸味が塩味と甘味を緩和」し、「渋味が旨味を強化」するのです。

以上を踏まえ、ドゥシャス デ ブルゴーニュの特徴にこうアプローチしてみます。
①フレッシュな果実香には同じく爽快なレモンを。オーク樽熟成によって加わった香りから、赤ワインのように「肉料理」を合わせる
②ビールの酸味と甘味の味わいは大切にしたい。料理を塩味のある味付けにして、レモンの酸味で緩和、かつ塩味による甘味の強化で酸味にまるみをつける。これでバランスが取れないか検証
③飲んだ後の長い余韻が、肉の香りをマスキングすることを期待。 清涼感あるビールの飲み口にはさっぱりとした料理で合わせ、タンニン由来の渋味で肉の旨味を味わう

「牛たたきカルパチョ」との相性は★★★★☆

今回のペアリングは「牛たたきカルパチョ」です!!

「デュシャス デ ブルゴーニュ」×「牛たたきカルパチョ」
「デュシャス デ ブルゴーニュ」×「牛たたきカルパチョ」

牛モモ肉の表面を焼き、冷水で締める。それをスライスし、レモン果汁と塩味の強い薄口醤油を合わせたタレを付けて。お好みでウズラの卵を絡めていただきます。牛肉の旨味と触感を存分に感じながらも、レモンの酸味で後味さっぱり。薄口醤油に含まれる成分のメラノイジンが、本みりんの深みある甘味を引き出します。

そこにドゥシャス デ ブルゴーニュを一口含む。レモンとビールのフルーティーな香りが調和、肉の生の香りをマスキングします。カルパチョの甘味ある味わいがビールの酸味を緩和し、牛肉を噛むほどにビールの渋味によって肉の旨味が強調されていくのがわかります。黄身を和えればマイルドな口当たり。酸味・甘味・塩味共に落ち着き、さらに肉の香りが抑え込まれたことでビールの香りをしっかり感じることができました。

評価は★★★★☆。5をつけたいほどに美味でした!! …が、もう少しビールのフルーティーさを生かしたい。今度は、牛肉の生の香りを抑えたローストビーフに、醤油を隠し味にしたトマト風味ソースをかけてみようと思います。ビールの発酵した酸味ある味わいと、同じく醤油の発酵した醤油の風味が調和しながら、ビールの渋味が牛肉とトマトソースの旨味を引き出してくれそうです。

最後に…。
本連載を最後までご覧いただいた皆様に、心からの感謝を込めて。
佐藤翔平 

【ビアプロフィール】
商品名 : ドゥシャス デ ブルゴーニュ
アルコール度数 : 6.2%
原材料 : 麦芽・ホップ・小麦・糖類
醸造所:ヴェルハーゲ醸造所
生産国:ベルギー
問い合わせ先:小西酒造株式会社(072-782-5251)

■牛たたきカルパチョ
【材料】
牛モモブロック 150gほど
サラダ油 適量
コショウ 少々
卵黄 1個
万能ネギ 少々
つま 少々
<和風だれ>
薄口醤油 15cc
本みりん 5cc
レモン果汁 2.5cc

【作り方】
1. モモブロックを繊維にそって4cm角ほどの棒状に切る。全体に軽くコショウをふり、冷蔵庫に入れなじませる
2. 冷水を用意。熱したフライパンに油を敷き、モモブロックを六面全て焼き目を付ける。その後すぐに冷水に漬け冷やす
3. タレを合わせておく。肉のあら熱が取れたら、ペーパーなどで水気を拭き取り、薄くスライスする
4. 3.を皿に並べ、つま、卵黄を盛りつける。タレをかけ、万能ネギをちらして完成
※分量は目安です。お好みでご調整ください。

【参考資料】
食とビールの専門家 ビア・コーディネイター認定講習会テキスト『ビールと料理の“マリアージュ” 〜味と香りの“シナジー・リアクション”を考える〜』(クラフトビア アソシエーション刊)

佐藤翔平

ビアジャーナリスト。酒類に詳しくなる為にビールから飲み歩き始め、その多様さに魅了される。飲食店勤務の傍らティスティングを行い、その記録は500を超える。JBCA認定ビアテイスター。ジャパンビアソムリエ協会(JBSA)認定ビアソムリエ。