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beer365 magazine ビアサンロクゴ

コラム

2019.11.22

【05】1 Day 1 Beer プロジェクト─アメリカ中西部の深部から感じるビール文化

千田 晋 千田 晋

前回お伝えしたサンフランシスコを後にし、当初はシアトル、ポートランドを回ろうと思っていましたが、急遽予定を変更し、友達が住むミシガン・デトロイトへ向かいました。

サンフランシスコも寒かったですが、到着したデトロイトは大雪が吹き荒れる氷点下!しかもこの日は1970年代以降の11月の過去最低気温記録を更新したとか。

友達が住むのは、デトロイト北東部に位置する小さな町、ポンティアック。ちょっと歩けば町全体が見渡せる、人口6万5千人のスーパーマーケットもない小さな町に地元のブルワリーが2軒もあることに驚かされました。歩いて1分の距離の町の中心部に2軒が隣り合うブルワリーへ行ってみました。

@FILLMORE 13 BREWERY

美味しいビールを造るだけでなく、ポンティアックに新しい息吹を吹き込むコミュニティ造りを使命に3年前に創業したFILLMOREは、充実した食事のほかにオフィススペースやカフェ、ギャラリースペースも併設する町の憩いの場。
私の友達もグラウラーでよくビールを買いに来るというこのブルワリーで、まずフライトから飲み始めてみました。

◆FILLMORE 13 BREWERY WAR CRY/IPA/Alc6.5%/IBU85(写真左端)
ホップにコロンバス、チヌーク、カスケードの3種類を使用したFILLMOREのフラッグシップIPAは、結構ダークな色目のミディアムプラスなボディにスムースな口当たり。その上で柑橘系かつハーバルなホップアロマが躍るテイストで、程良く効いた炭酸とともにフィニッシュはドライ。全体的にとても良いバランスの美味しいIPAです。

お次は、同じ建物内でトイレも共有しているお隣のブルワリーに行ってみました。

@Exferimentation Brewing Co

FILLMOREと同じく3年前に創業したExferimentationは、100%インディペンデントなブルワリーです。400L程度の仕込窯と4機のタンクという小さな設備で醸造していますが、経験豊富なブルワーが造るビールからは設備の小ささをまったく感じさせません。この小さな町で独立経営しながら、夕方にはたくさんの人々でを賑わいを見せていました。

◆Exferimentation Brewing Co FLASHBANG!/セッションIPA/Alc5.0%/IBU na

ここのビールは、Experimentationを捩ったブルワリー名にふさわしく、すべてのビールがビーカーに注がれています。また「ビールは科学実験」と謳う通り、どれも一捻りしたレシピのビールが並んでいました。

中でも印象深かったのは、オレンジピールを配合し、モザイクをダブルドライホップしたセッションIPA。ホップアロマがフワリと香りながら、オレンジピールの風味がとてもしなやかになじみ、ビール全体の味わいをまとめています。全体的に軽やかな印象のあるビールです。

平日の昼間からカルチャー教室に集まったり、仕事の帰り道にビールを飲んでいく人々は皆、地元に美味しいブルワリーがあるのに、わざわざ他でビールを飲む理由なんかないと言います。

「ここはただビールが飲める場所だけでなく、もっと大事な意味のある場所なんだ。彼らはこの町を選んでくれた。そして私たちが持っていなかった場所を作ってくれた。彼らはファミリーだ。応援するのは当たり前さ。それでなくてもビールが美味いんだよ!」

デトロイトの中でも貧困層エリアのポンティアックという場所にこだわり、ビール造りを続けるブルワリーからは、ビールを通じて町を発展させようとする信念が伝わってきます。人通りのない外から一歩店内に入ると、たくさんの人で賑わっている様子から、今も昔も地域と共に発展してきたビール文化であることを確信させられました。 

千田 晋

「Brewer's Beer Stand 34」オーナー。映画業界を経てクラフトビール業界入り。ブルワーとセールスに従事し、クラフトビアバーをオープン。海外在住時に魅了されたビールの自由さを、様々なカルチャーを交えて多くの人に伝えたい!