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コラム

2016.02.24

連載:文脈で読み解くビール考06/セゾンで考える「ストライクゾーン」と「得意コース」

沖 俊彦 沖 俊彦

ビアスタイルの名称が一般化しつつありますが、ひとつのスタイルの中でも様々なバリエーションが見られます。その違いや自分の好みを語り合うことで見えてくることもたくさんあると思います。たとえば「セゾン」についてはどうでしょうか?

「Tank 7 Farmhouse ale(タンク7 ファームハウスエール)」photo : Adam Barhan
「Tank 7 Farmhouse ale(タンク7 ファームハウスエール)」photo : Adam Barhan

セゾンは話のネタに最適!?

ランチしながら噂話をしてみたり、カフェで政治や哲学のことを議論したり。バーでお酒を飲みながら愛について語ったりもするでしょう。いつの時代であってもお喋りは楽しいものです。今度何人かでビアパブに行ったらぜひセゾンを飲み、それについて話してみてください。1時間は楽しく過ごせるでしょう。なぜなら、私なりに幾つか理由があるのです。

現在、クラフトビールシーンで俄然注目を集めているのがセゾンです。世界中の流行であり、セゾン専門の醸造所もあるほどです。その人気ぶりは確かなのですが、一口にセゾンと言っても最近は銘柄によって随分と雰囲気やノリが違い、非常に幅が広い。「どういうセゾンが好みか?」や「そもそもセゾンって何だろう?」といったことを考えるのは面白いと思うのです。

試しにセゾンを3パターンに分けてみる

たとえば、こんなのはどうでしょう? 現在セゾンと呼ばれているものを私なりに考えた3つのパターンに分け、代表的な銘柄と共にご紹介したいと思います。「ベルギーの老舗醸造所が造ったクラシックセゾン」「ベルギー人によるクラシックを再解釈したモダンセゾン」「アメリカ風にセゾンを再解釈しながら進化しているコンテンポラリーセゾン」です(この分類やネーミングは私が勝手に作ったものです。あしからず)。今召し上がっているものはどれに当たるでしょうか。そして、他のセゾンとはどう違うでしょうか。

まずは「ベルギーの老舗醸造所が造ったクラシックセゾン」。「Dupont(デュポン)」「Silly(シリー)」など、「BJCP(Beer Judge Certification Program)2015」のコマーシャルサンプルに挙がっている、昔からあるベルギーの醸造所のものを思い起こしてください。基本的にはホッピーではなく、モルティ。素朴であっさり。少し酸を感じたりもしますが、フィニッシュはそれほどドライではないように思われます。

次は「ベルギー人によるクラシックを再解釈したモダンセゾン」。代表的なものとして「kleinbrouwerij de glazen toren(グラゼントールン醸造所)」を挙げたいと思います。ここの「saison d'erpe mere(セゾン デルポメール)」はまさに傑作で、やや線の細いボディながらホップ、モルトが絶妙のバランスで組み合わさっています。また、香味も華やかな香りが強くなり、複雑です。適度な硫黄の風味や酵母のニュアンスなどがベルギーらしさをしっかり出し、極めてドライなフィニッシュ。一口飲めば「あぁ、クラシックを解釈し、モダンに美しく仕上げると確かにこうなるね」と納得していただけるはずです。

最後は「Tank 7 Farmhouse ale(タンク7 ファームハウスエール)」。こちらは「アメリカ風にセゾンを再解釈しながら進化しているコンテンポラリーセゾン」。アメリカの「boulevard brewing(ブルヴァード醸造所)」のものです。現在モルトガットデュベル社の傘下に入っているところで、非常に人気があります。ホップがしっかり効いていて、前述の2つよりややボディが硬く太い気がします。ホップの影響が強いのでしょうが、ベルギーっぽさはあるもののやはりちょっと違う雰囲気が漂います(ちなみにホップはアマリロだそうです)。

野球でたとえれば「ストライクゾーン」と「得意コース」の違い

この分け方が良いかどうかはさておき、同じビールを何人かで試し、どれが一番好きかをああでもないこうでもないと議論してみるのは絶対に面白いです。難しい専門用語や品評会の評価基準を持ち込む必要はありません。飲んで素直に感じたことをそのまま話してください。その中で各人の嗜好や視点の違いが見えてきます。そして、自分の好みの傾向もわかってくるでしょう。仲間と自分、両方を理解するきっかけになります。

野球でたとえれば、「ストライクゾーン」と「得意コース」の違いです。自分の得意コースが誰かのストライクゾーンではないかもしれません。もちろん逆もあり得ます。自分の好みを追求するのも良いですが、語り合う中で他者のストライクゾーンを理解することによって確実に打率が上がっていくでしょう。

それは単にお酒を解釈するという点だけでなく、人と人とのコミュニケーションそのものに発展していきます。「同じ釜の飯を食う」ならぬ、「同じ瓶の酒を呑む」仲間とでもいいましょうか。クラフトビールはそういう相互コミュニケーションのツールでもありますし、そういう語らいがもっと増えて欲しいと思います。 

沖 俊彦

CRAFT DRINKS運営責任者。1980年生まれ。都内酒販店にて「欧和」の担当を務めた後、2012年大月酒店に移籍。2015年「CRAFT DRINKS」を立ち上げ現在に至る。ビール品評会審査員も務め、セミナー講師も多数。セミナーや勉強会も開催。詳細やお問い合わせはtoki@craftdrinks.jpへご連絡ください。CRAFT DRINKS BLOGCRAFT DRINKS FACEBOOK